ニューギニアの社会が,言語学的にも,文化的にも,政治的にもばらばらであることは,その地形の複雑さや,小規模血縁集団や集落のあいだで戦闘がひんぱんに繰り返される状態がずっとつづいていたことで説明できる。ニューギニアは,世界でも飛び抜けて言語の数が多い地域である。面積はテキサス州よりわずかに大きいだけなのに,世界に6000ある言語のうち,なんと1000がニューギニアに集中し,数十を超える言語グループに分かれて存在しているのである。そして,それぞれの言語は,英語と中国語のちがいに匹敵するほど異なっている。ニューギニアの言語の半数は,言語人口が500人にも満たない。最大の言語人口を誇った言語グループでも10万人そこそこである。しかも,何百もの小集落に分裂しているニューギニア人は,同じ言語グループの集落や,他の言語グループの集落を相手に激しく争っていた。そして,これらの集団は,族長や職人を支えたり,治金技術や文字システムを発達させるにはあまりにも小さすぎた。
ジャレド・ダイアモンド 倉骨彰(訳) (2000). 銃・病原菌・鉄 下巻 草思社 pp.145-146
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