正確にいうならば,ヨーロッパに何百人もいた王侯の1人をコロンブスが5回目にして説得できたのは,ヨーロッパが政治的に統一されていなかったおかげである。やがて,アメリカを植民地化しはじめたスペインに流れ込む富を見て,6つの国がアメリカを植民地化しはじめる。これらの国々がスペインに追随したことは,大砲の威力を目にしたヨーロッパ諸国が競って大砲を使いはじめたことを思い起こさせる。電灯や印刷技術,小火器をはじめとするさまざまな新技術をヨーロッパ諸国が競って取り入れたことにも似ている。これらの新技術は,当初は何らかの理由で受け容れられなかった。ところが,いったんある地域で使われ始めるや,その後はヨーロッパ全土へと広がっていったのだ。
このように,ヨーロッパと中国はきわだった対照を見せている。中国の宮廷が禁じたのは海外への大航海だけではなかった。たとえば,水力紡績機の開発も禁じて,14世紀にはじまりかけた産業革命を後退させている。世界の先端を行っていた時計技術を事実上葬り去っている。中国は15世紀末以降,あらゆる機械や技術から手を引いてしまったのだ。政治的な統一の悪しき影響は,1960年代から70年代にかけての文化大革命においても噴出している。現代中国においても,ほんの一握りの指導者の決定によって国じゅうの学校が5年間も閉鎖されたのである。
ジャレド・ダイアモンド 倉骨彰(訳) (2000). 銃・病原菌・鉄 下巻 草思社 pp.309-310
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