この人間の非合理的なふるまいは,学術的に「確証バイアス」と呼ばれている。自分の信念を支持する証拠はもっともらしく,自分の信念に反する証拠は怪しく見える心理的なクセがあるのだ。投稿された論文の査読者は,つねに自分の信念に照らして判断していることが,社会心理学の調査でたびたび裏づけられている。ある仮説に同意している査読者は,その仮説に肯定的な結果を示している論文の価値を高く評価する一方,同意していない査読者は,同じ論文に誤りがあると判断する傾向がある。前者の査読者は掲載を勧めるのに,後者は掲載を拒絶するのである。最終判断は編集者にゆだねられるが,たまたまその編集者もその仮説に同意していないとすると、その論文は掲載されない可能性が大である。そうすると,その論文が扱っている証拠は,科学コミュニティにとって存在しないに等しい。この結果,科学界には,受け入れやすい考え方ばかりを表明する「いい子ぶりっ子」の上流クラブが形成される。そのため,受けいれにくい考え方は,流れ者がつどう場末の溜まり場に託される。幸運なことに,ほとんどの科学者は好奇心のかたまりであるから,その上流クラブの規則は,粘り強い働きかけがあれば変更可能だろう(年長のいい子ぶりっ子が引退したときがチャンスかもしれない)。
ディーン・ラディン 竹内薫(監修) 石川幹人(訳) (2007). 量子の宇宙でからみあう心たち:超能力研究最前線 徳間書店 pp.151-152
PR