科学革命は,ヨーロッパが中世から脱却したころに支配的だった思考方法に対する反発だった。そのころは,この世のあり方に関して人びとが抱いていた信念を何か系統だった方法で推し量れるような時代ではなかった。たとえば,ある町の商人たちは絞首刑になった人間の衣服を剥ぎとって盗んだが,それでビールの売上げが伸びると信じていたからだった。また別の町には,祭壇のまわりを裸で歩きながら神を冒涜するような祈りを唱えれば病を治癒できると信じる教区民たちがいた。さらには“相性の悪い”トイレでの小用は不運をもたらすと信じる商売人さえいた。じつはその人物,2003年にCNNのリポーターに自身の秘密を告白した証券売買業者である。そう,今日もなお迷信にしがみついている人間はいるのだ。
レナード・ムロディナウ 田中三彦(訳) (2009). たまたま:日常に潜む「偶然」を科学する ダイヤモンド社 p.94
(Mlodinow, L. (2008). The Drunkard’s Walk: How Randomness Rules Our Lives. New York: Pantheon.)
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