もう1つ,狂気のゲームを紹介しておこう。カリフォルニア州がその市民につぎのような提示をしたとしよう。1ドルまたは2ドル払った者のうち,ほとんどの者は何ももらえないが,1人は大金を手にし,1人は暴力的な方法で死刑にされる。はたしてこんなゲームに申込む者がいるだろうか?それがいるのだ。それも意気込んで。「州の宝くじ」と呼ばれているのがそれだ。
もちろんいま私が書いたような形で州がそれを宣伝しているわけではないが,実際にものごとはそのように運んでいる。というのも,1人の幸運な人間がゲームごとに大金を手にする一方,何百万というほかの競合者が券を買うために車で各地の発券所に向かったり,そこから戻ったりする際,途中で何人かが事故で死んでいるからだ。米国道路交通安全局の統計データを使い,それぞれの人間がどのぐらい遠くまで車を運転し,券を何枚買い,何人の人間が典型的な事故に巻き込まれるかといった前提を立てると,そうした不慮の死に対する合理的な評価は,1回の宝くじでおよそ1人が死ぬ,ということになる。
レナード・ムロディナウ 田中三彦(訳) (2009). たまたま:日常に潜む「偶然」を科学する ダイヤモンド社 p.118
(Mlodinow, L. (2008). The Drunkard’s Walk: How Randomness Rules Our Lives. New York: Pantheon.)
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