ラヴォアジェは,多くの科学実験の資金を稼ぐべく,国に保護された収税吏たちの,ある特権的で私的な会のメンバーになっていた。そのような地位を手にしていると,市民が感動してその人間を自宅に招き入れ,温かいショウガ風味のカプチーノをご馳走する,などといった時代は,たぶん歴史上存在しないだろう。逆に,フランス革命が起こったとき,それが災いの元になった。1794年,ラヴォアジェは会の残りのメンバーとともに逮捕され,ただちに死刑を宣言された。いつもひたむきな科学者だった彼は,後世の役に立つようにと,いくつかの研究を完成させるための時間を要求した。それに対する裁判長の有名な答えは,「共和国に科学者は不要である」だった。近代科学の父はただちに首を切り落とされ,死体は合同墓所に投げ入れられた。彼は助手に,切り離された頭がいくつしゃべろうとするかを数えるように言ったとされている。
レナード・ムロディナウ 田中三彦(訳) (2009). たまたま:日常に潜む「偶然」を科学する ダイヤモンド社 p.193
(Mlodinow, L. (2008). The Drunkard’s Walk: How Randomness Rules Our Lives. New York: Pantheon.)
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