2005年7月7日,テロリストがロンドンのバスや地下鉄を攻撃し,52人が死亡した。その後の調査で,ロンドンの広範囲にわたる監視カメラ網が役に立ったと大いに賞賛された。だがその科学技術が,電車に乗っていた一般市民にはいかに無用であったかということはあまり知られていない。テロ攻撃時の対応に関する公式の報告書によって,1つの「何よりも重要な,かかすべからざる教訓」がわかった。つまり,緊急事態計画は,一般市民ではなく,職員の非常時の必要性を満たすようになっていたのである。その日,乗客たちは,爆発があったことを電車の運転手に知らせる手段もなかった。脱出するのも困難だった。電車のドアは乗客が開けられるようにつくられてはいなかった。あげくの果てに,乗客たちは負傷者の手当てをするための救急箱を見つけることさえできなかった。救急用品は,車内ではなく,地下鉄の管理者のオフィスにしまってあることがわかったのだ。
アマンダ・リプリー 岡真知子(訳) (2009). 生き残る判断 生き残れない行動:大災害・テロの生存者たちの証言で判明 光文社 p.19
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