なぜわたしたちは避難を先延ばしするのだろうか?否認の段階では,現実を認めようとせず不信の念を抱いている。我が身の不運を受入れるのにしばらく時間がかかる。ローリーはそれをこう表現している。「火事に遭うのは他人だけ」と。わたしたちはすべてが平穏無事だと信じがちなのだ。なぜなら,これまでほとんどいつもそうだったからである。心理学者はこの傾向を「正常性バイアス」と呼んでいる。人間の脳は,パターンを確認することによって働く。現在何が起こっているかを理解するために,未来を予測するために,過去からの情報を利用する。この戦略はたいていの場合うまくいく。しかし脳に存在していないパターンに出くわす場合も避けられない。言い換えれば,わたしたちは例外を認識するのは遅い。しかもピア・プレッシャー[仲間集団からの社会的圧力]の要因もある。だれだって不吉な前兆を経験することがあるが,たいていは事なきを得るものだ。違った行動をすると、過剰適応を受けて周囲を混乱させるリスクがある。だからわたしたちは控えめな反応をするという過ちを犯す。
アマンダ・リプリー 岡真知子(訳) (2009). 生き残る判断 生き残れない行動:大災害・テロの生存者たちの証言で判明 光文社 pp.40-41
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