しかし残念ながら世界の国々では,発展途上国においてさえも,役人が好むのはシンプルな方法よりも複雑な仕かけである沿岸の国,バングラデシュでは,1970年のサイクロンで30万人が死亡したあと,政府は複雑な警報システムを考案した。異なった10の警報レベルのうちのどれかを示す旗を掲げるボランティアが訓練された。だが地方の村民を対象にした2003年の調査で,多くの人が手旗信号を無視していることがわかった。「第一信号から第十信号までの災害信号があることは知ってるよ」と,ムハンマド・ヌラル・イスラムは,ロンドン大学に本拠を置くベンフィールド・ハザード研究センターのチームに語った。「だけど信号の意味は知らない」。しかし彼は,個人的に独自の生存システムをちゃんと持っている。「空が薄暗くなって,ハチが群れをなして動きまわり,牛に落ち着きがなくなって,風が南から吹くようになれば,どんな災害がやってくることも予測できるんだ」
アマンダ・リプリー 岡真知子(訳) (2009). 生き残る判断 生き残れない行動:大災害・テロの生存者たちの証言で判明 光文社 p.104
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