個人の性格やリスクに対する認識が重要であるなどといった言い逃れをする前に,屋根や道路や保健医療が必要とされている。そしてその効果は幾何級数的である。タフツ大学のマシュー・カーンが行なった研究によると,大国が1人当りのGNPを2千ドルから1万4千ドルに引き上げれば,1年間に530人の天災による死者を救うことが期待できるという。しかも被災者たちにとって,金は融通のきく一種の元気回復剤である。治療することもできれば安定した生活や復旧ももたらしてくれるのだ。
しかし1人あたりのGNPが約4万2千ドルであるアメリカのような豊かな国においては,相違は個人の特性によって生じる。実際のところ,個人の性質のほうが災害の現実よりも重要になりうるのだ。「個々の出来事で慢性的なストレスを確定するものは,結局は出来事の詳細よりも遺伝子や個性だろう」とイスラエルの心的外傷専門家であり精神科医でもあるイーラン・クッツは言っている。すべての明白な要因(性別,体重,収入など)が同じでも,人より優れている人々もいる。他人よりずっと頑健なのだ。理由は大きな謎である。
アマンダ・リプリー 岡真知子(訳) (2009). 生き残る判断 生き残れない行動:大災害・テロの生存者たちの証言で判明 光文社 pp.167-168
PR