「1988年全国ベトナム復員軍人再適応研究」によると,ベトナム復員軍人の約3分の1が,戦後,心的外傷後ストレス障害を患った。これは大変な数である。彼らがほかの兵士よりひどい心的外傷を受けたと判断するのは理にかなっているだろう。彼らが傷を負ったのは,能力や人格のせいではなく,その身に恐ろしいことが起こったためなのだ。
だがギルバートソンはそれとは違うことを発見した。脳の画像を見ると,双子の組のなかでは,海馬はほぼ同じ大きさだった。戦争による心的外傷がベトナムへ行った兄か弟の海馬の大きさを著しく変えることはなかったのだ。だが双子の組の間には大きな違いがあった。心的外傷後ストレス障害にかかった復員軍人を含む双子の組は,障害にかかっていない復員軍人を含む双子の組よりも小さな海馬を持っていた。つまり,海馬は心的外傷を受ける以前から比較的小さかったようである。特定の人たちは,ベトナムへ出発する以前から心的外傷後ストレス障害に陥る危険性が高かったのである。これらのことから,災害時に恐ろしい出来事に対処したり,災害後に心的外傷から回復するのに苦労する人たちもいるだろうと推論することができる。
アマンダ・リプリー 岡真知子(訳) (2009). 生き残る判断 生き残れない行動:大災害・テロの生存者たちの証言で判明 光文社 pp.184-185
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