1990年代に,英国下院のある委員会は,空港の待合所に飛行機の客室のシミュレーターを設置することを提案した。そうすれば,乗客は長々と説明を受けていた救命手段のいくつかを実際に練習する機会が得られるのだ。離陸を待つ間にむっつりとケーブルテレビのニュースを見つめる代わりに,非常口を開けたり,救命胴衣を膨らませたり,酸素マスクを付けたりすることができる。何ていい考えだろう!だがそのアイデアはひっそりと消えていった,とクランフィールド大学航空安全センターの元所長,フランク・テイラーは回想する。「英国民間航空局は,きちんとした検討をまったくせずに却下したのだ」と彼は言う。「当局は改革などということはまったく考えたくなかったようだ。人手不足なので,すぐに利益が見込めないことはやらないのである」
同様に,アメリカの高等教育の多くが,経費削減と訴訟への恐れから,自動車教習の授業を中止した。学校はタイプライターの技能は教えるが,事故死の最大の原因から子供たちを守るためにはもはや何もしない。多くの州では,子供たちは現在,両親から運転を学んでいるが,それはとんでもない考えである。テキサス運輸研究所が2007年に行なった調査によると,両親に運転を教えられたティーンエージャーが重大な事故に巻き込まれる可能性は,プロに教えてもらった場合の2倍い上なのである。
アマンダ・リプリー 岡真知子(訳) (2009). 生き残る判断 生き残れない行動:大災害・テロの生存者たちの証言で判明 光文社 pp.361-362
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