心理学で,とりわけ行動療法で認知療法が受け入れられたことについて,ベックは「心理学はパラダイム変化の影響を非常に受けやすいのです。精神療法セラピスト,つまり臨床心理士は,どちらかというと精神力動的モデルに執着していましたが,理論心理学者はさまざまな段階を順々に経て,行動的段階からしだいに認知的段階へと移行していきました」と語る。さらに認知療法の実証的裏づけが,理論心理学者には説得力を持った。「心理学はしっかりした理論的基礎を持っているために,実証データから受ける影響は精神医学よりもはるかに大きいのです。精神医学のほうは,ベテラン臨床家の合意によって議論が進められる例がずっと多く見られます」とベック。心理学の主流となりつつあった流れにベックが乗った時期が,ちょうど「精神医学の主流が現象学的なものから生物学的な原因と治療へ,そして薬物療法を重視する現在の傾向へと移り変わっていく時期と重なっていた」ともベックは述べている。
マージョリー・E・ワイスハー 大野 裕(監訳) 岩坂 彰・定延由紀(訳) (2009). アーロン・T・ベック:認知療法の成立と展開 創元社 pp.59
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