1990年,ベックは元の弟子たちと共同執筆した『人格障害の認知療法』を出版した。この著書で,認知療法は長期療法へと適用範囲を広げ,また根底にあるスキーマへの重点的取り組みがいっそう明瞭になった。ベックはスキーマを,経験や行動を系統立てる認知構造であると定義し,いっぽう信念やルールはスキーマの内容であるとした。スキーマは,行動から推測でき,また面談や問診を通しても判断できる。パーソナリティ障害の場合,スキーマは認知,感情,行動により堅固に保持されている。したがって,介入はこの3つの側面のすべてを通じて行なう必要がある。つまりパーソナリティ障害の治療では,認知の論理すなわち合理性の検討,情緒的カタルシスの促進,行動随伴性の設定のいずれかだけでは不十分なのである。
ベックらはパーソナリティ障害の認知療法を,これほど複雑ではない障害の認知療法を修正したものだと説明する。パーソナリティ障害患者に認知療法を行なう場合には,イメージ法を使って過去の体験を思い起こし,それを通してスキーマを活性化して,スキーマにアクセスしやすくすることに重きが置かれる。とくに患者が過去の体験認識を認知的に避けている場合には,これが大切である。スキーマの発達とはたらきを探り,さらにこれに挑む際には,子ども時代の体験を素材とすることも重要になる。
マージョリー・E・ワイスハー 大野 裕(監訳) 岩坂 彰・定延由紀(訳) (2009). アーロン・T・ベック:認知療法の成立と展開 創元社 pp.78
PR