うつ理論を再構築するなかでベックは,ストレスとして影響を受けやすいでき事の種類は,人のタイプによって異なる,という仮説を立てた。そしてクリニックの外来患者を対象とする研究をしたところ,対人志向性(sociotropy)と自律性(autonomy)という2つの大きなパーソナリティのタイプあるいはモードを確認した。両者は環境中の異なったタイプのでき事に反応し,それがうつの病因となると考えられた。対人志向性タイプは,積極的な社会的交流に充足感を求めるという特徴を持つ。このタイプの患者の場合,社会的絆の破綻がきっかけでうつ病になることが分かった。これは,社会的絆の破綻がうつ病の主要素だとするボウルビーの研究結果と一致する。また,もう一方の患者群は,第2のパーソナリティモードである自律性を示した。自律性タイプの特徴は,達成への欲求,可動性つまり他舎の支配からの自由,そして孤独を好むことである。自律性タイプの場合は,目標達成が妨げられるとうつになることが分かった。この2つのパーソナリティタイプあるいはモードは,一側面の両極端を表すもので,二分法的分類でも絶対的分類でもない。
マージョリー・E・ワイスハー 大野 裕(監訳) 岩坂 彰・定延由紀(訳) (2009). アーロン・T・ベック:認知療法の成立と展開 創元社 pp.97
PR