ベックの認知療法に関する研究がとりわけ多いせいだと思われるが,認知療法はすべての認知的治療法の代表として,ときにはすべての短期療法の代表として,反対派からの批判の矢面に立ってきた。しかし同時に,各認知療法や認知的処理論のあいだでも,大きな意見の相違が存在する。
哲学的な論争ではよくあることだが,認知療法と他の治療法とのあいだで誤った二分法が作り出されている。曰く,「認知療法」対「行動療法」,「認知療法」対「体験的治療」,「認知療法」対「薬物療法」等々である。実際には,認知療法はこれらいずれの治療法とも相容れないものではなく,それが適切ならばこれらを採用しさえしている。精神療法の統合が進むにつれ,認知療法は独特の治療法であり続けるかどうかが問われることになるかもしれないが,目下のところ主として問題にされているのは,認知療法の理論的基礎と,回復過程での精神病理的認知の変化の実証である。
マージョリー・E・ワイスハー 大野 裕(監訳) 岩坂 彰・定延由紀(訳) (2009). アーロン・T・ベック:認知療法の成立と展開 創元社 pp.156
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