認知療法は認知行動療法におけるいくつかの動き,とくに構成主義と精神統合療法の動きとともに発展してきた。こうした動きは,認知療法に刺激を与えた。近年では,情報処理モデルとしての認知療法よりも,認知療法の現象学的性質のほうが重視されるようになっている。この変化は,認知療法の基本的前提を反映したものとも言える。認知療法は,1970年代に優勢だった,人間の体験をコンピュータでたとえる機械論的なアナロジーに頼るのではなく,患者がいかに自分の現実を構成するかが重要であるということを基本前提としているのである。構成主義は患者にとっての現実を強調するが,その現実が正確であるか,合理的であるかは問題にしない。このように,セラピストは患者の体験に現実性を押しつけないようになっていくと考えられる。構成主義を支持する人は多く,現代の各種認知的治療法の自己定義にも大きな影響を及ぼしている。
マージョリー・E・ワイスハー 大野 裕(監訳) 岩坂 彰・定延由紀(訳) (2009). アーロン・T・ベック:認知療法の成立と展開 創元社 pp.159
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