本書では,あえて性格観や人間観,世界観を持ち込まずに,このあとの議論を明確にすることだけを目的に,性格ということばが現実に指し示しているもの(概念のレファレント)の最大公約数を具体的に示すことによって性格を定義する。すなわち性格とは,「人がそれぞれ独自で,かつ時間的・状況的にある程度一貫した行動パターンを示すという現象,およびそこで示されている行動パターンを指し示し,表現するために用いられる概念の総称」である。
性格概念(personality constructs)とは,先の性格の定義で述べたような,個人が示す独自で,かつ時間的・状況的にある程度一貫した行動パターンを指し示す構成概念,ならびにそうした個々の行動パターンを統合した上位概念のことである。
ただし,性格概念はそうした行動パターンを構成する行動そのものを指すことばではなく,それらを抽象化した概念である。性格概念は,性格という「現象」を指し示すだけのために用いられることもあるし,人間の内部にあって性格という現象を引き起こすような実体を指し示すために用いられることもあるが,本書ではどちらも性格概念と呼んで,特に区別しない。「太郎君は引っ込み思案である」というとき,「引っ込み思案」が性格概念である。「引っ込み思案」自体は具体的な行動ではなく,目に見えない抽象的な概念である。引っ込み思案,恥ずかしがり,人見知りなどの性格概念を統合して「非社交性」と呼ぶ場合,この「非社交性」も性格概念であるし,非社交性を敏感性,非活動性などと統合して「内向性」といった,より上位の概念に表した場合も,この「内向性」が性格概念である。
渡邊芳之 (2010). 性格とはなんだったのか:心理学と日常概念 新曜社 pp.23-24
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