同僚が仕事に集中して大きな成果を上げたときに,それを評して「彼は努力家だからね」と述べたとする。このとき「努力家」は性格概念であるので,その性格概念から「仕事に集中して成果を上げる」という行動が,性格関連行動として説明されたことになる。
ただし,このときこの説明が意味するのは,これまでの彼の行動から彼に帰属された「努力家」という性格概念について,新たな行動的レファレントが追加された,ということを記述しているにすぎない。彼は努力家である,なぜならこれまで仕事その他の活動に集中し,大きな努力を注ぐ,そうした努力が人一倍であるという行動が見られたからである。そして今回またその行動リストに新たにひとつが加えられた。つまり過去の行動によって帰属された性格概念から論理的・意味的に演繹される行動が実際に観察され,性格概念の帰属がより妥当性を高めたことが確認されたのである。「彼は努力家だからね」という説明には,それ以上の意味はない。
ここでは,「努力家」という性格概念と,そこから演繹される性格関連行動とは論理的にも時間的にも並立の関係にあって,性格概念が論理的または時間的に行動に先行することは特に意識されていない。また,こうした説明における性格概念は完全に観察に還元されるもので,その意味で,性格概念から性格関連行動を説明することはトートロジーである。
渡邊芳之 (2010). 性格とはなんだったのか:心理学と日常概念 新曜社 pp.49-50
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