心理学は性格以外の分野でも,人の行動や心的活動を指し示す日常的な概念を,ほとんどそのまま科学的分析の中に取り入れていることが多い。記憶,忘却,感情,欲求や意欲,不安,攻撃,自尊心といった心理学的概念のほとんどが,心理学が誕生する以前から日常的に人の行動や心的活動を意味するために使われていた日常概念そのものであるか,少なくとも,日常概念と密接に結びついている。
一貫性論争の教訓は,そうした日常概念を心理学の中に取り入れるときに,そもそもその概念が日常的に用いられている時の用法や,その用法の根拠となっている論理をきちんと分析し,その用法や論理に心理学的な妥当性や根拠が与えられるかどうかを明らかにすることの必要性を示している。そうした分析によって,もしその概念の用法の根拠が心理学的に妥当化されない場合には,その概念を心理学で用いることをやめるか,さもなくば,その概念を心理学的に明確に定義し直し,心理学ではどのような根拠に基づいてどのように使用するのかを明確に定めることが必要である。性格概念においては,そうした再定義や根拠の明確化が不十分なまま,心理学者が一般人と同じ素朴実在論の上に立っていたために,大きな混乱が生じたと考えるべきだろう。
渡邊芳之 (2010). 性格とはなんだったのか:心理学と日常概念 新曜社 pp.87-88
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