しかしここまで分析してきたように,客観的な観察データを用いて,行動の通状況的一貫性を示すことは,ひとつは観察データ自体が観察できなかった,観察しなかった状況要因から自由になれないこと,もうひとつは観察対象である学習された行動自体が通状況的一貫性をもたないものであることから,じつは非常に困難なことだった。行動観察データだけを指標とする限り,性格概念は状況要因から独立にはなれないし,傾性概念としての性質しかもたない。また心理学的測定では,測定する性格概念が理論的構成概念であったとしても,それを操作的に定義して行動観察に置き換えた時点で,概念が傾性概念になってしまい,その測定値からの性格関連行動の状況を超えた予測や原因論的説明の根拠が揺らぐことについても論じた。
こうした観点から見直すと,一貫性論争では,性格心理学がその基礎とするデータを行動の観察だけにおく限り反論のしようのないテーゼに対して,できるはずのない方法による反論が試みられたわけで,そこから意味のある成果が得られることはそもそも期待できなかったのである。その意味で渡邊・佐藤は,一貫性論争が「擬似問題」であったと指摘している。
渡邊芳之 (2010). 性格とはなんだったのか:心理学と日常概念 新曜社 p.112
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