ビッグファイブについての議論の最後に,こうした因子構造と一貫性論争との関係について整理しておく。ビッグファイブの普遍性,とくに文化を超えた安定性を根拠にして,ビッグファイブの性格論が一貫性論争を止揚したような議論が散見されるが,それは正しくない。端的に言って,一貫性論争とビッグファイブは関係がないのである。先にも述べたようにビッグファイブの因子は,その因子の次元上で人の性格が個人差を示す,あるいは個人内で変動する,変化の次元であり,その次元が安定していることと,その次元上に布置される個人や個人の性格,性格関連行動が一貫していることとはまったく無関係である。個人とその性格は5次元で表現される空間内の一ヵ所に長くとどまることもできるし,状況の変化に応じて空間内を自由に動き回ることもできる。一ヵ所にとどまる個人には通状況的一貫性があると言えるし,動き回る個人には通状況的一貫性がない。極端な場合,一貫性論争におけるミッシェルの主張と,ビッグファイブの特性論の両方が同時にまったく正しいということも,何ら矛盾なく想定できる。
渡邊芳之 (2010). 性格とはなんだったのか:心理学と日常概念 新曜社 p.153
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