壊血病の問題を解決するには,水夫の食事内容を変えるのが一番簡単だったはずだが,当時,科学者たちはまだビタミンCを発見していなかったので,壊血病を予防するには加工していない果物を食べることが大事だとは知らなかった。その代わりに医師たちは,さまざまな治療法を提案した。もちろん,瀉血は定石とされていたし,水銀剤,塩水,酢,硫酸,塩酸,モーゼル・ワインなどを使う方法が試みられた。そのほかにも,患者を首まで砂に埋めるという治療法があったが,太平洋のまんなかでは,その手も使えなかった一番ひねった治療法は,重労働を課すというものだろう。なぜなら医師たちの見るところ,壊血病はなまけ者がかかる病気だったからだ。もちろん医師たちは,原因と結果を取り違えていた——水夫をなまけ者にしたのは壊血病であって,なまけ者だから壊血病にかかりやすいわけではなかったのだから。
サイモン・シン&エツァート・エルンスト 青木薫(訳) (2010). 代替医療のトリック 新潮社 pp.29-30
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