プラセボ効果はときに劇的なものになるため,科学者たちは,実際どういうメカニズムで患者の健康に影響が出るのかを明らかにしようと努めてきた。一説によれば,プラセボ効果は,イワン・パブロフにちなんで「パブロフ反応」と呼ばれる無意識の《条件付け》と関係があるという。パブロフは1890年代に,犬はエサを見てよだれを垂らすだけでなく,いつもエサをくれる人を見ただけでもよだれを垂らすことに気づいた。そこで彼は,エサを見てよだれを垂らすのは自然な反応(無条件の反応)だが,エサをくれる人を見ただけでよだれを垂らすのは,不自然な反応(条件づけられた反応)であり,犬がエサをくれる人物と,エサがもらえることとを結びつけなければ起こらないと考えた。そしてパブロフは,犬にエサを与える前にベルを鳴らすなどすれば,条件付けられた反応を引き起こせるという仮説を立てた。実際にやってみると,条件付けられた犬は,ベルを鳴らしただけでよだれを垂らすようになったのだ。これがいかに重要な発見だったかは,パブロフがこの仕事により,1904年のノーベル医学・生理学賞を受賞したことからもわかるだろう。
サイモン・シン&エツァート・エルンスト 青木薫(訳) (2010). 代替医療のトリック 新潮社 pp.85
引用者注:パブロフが条件づけの研究でノーベル賞を受賞したというのは誤りである。パブロフは「消化腺」の研究でノーベル賞を受賞しており,条件づけの研究の多くは受賞後に行われたはず。
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