さらに一般の人びとは,ホメオパシーを不当なほど好意的に扱うニュース番組に乗せられてしまう。近年,もっともあからさまにホメオパシーに好意的だった報道のひとつに,ブリストル・ホメオパシー病院で行われ,2005年に結果が発表された研究に取材したテレビ番組がある。ブリストル・ホメオパシー病院は,6500人の患者に対し,6年間にわたって追跡調査を行った結果として。慢性病をもつ人の70パーセントは,ホメオパシーによる治療を受けたのち,健康状態が改善したと言っていると述べた。この番組を見た一般の人びとにしてみれば,これは驚くほど肯定的な結果だろう。しかしこの研究では対照群が用いられていないため,ホメオパシーの治療を受けなくても改善したかどうかは知りようがなかった。症状が改善したという患者が70パーセントにのぼるというが,その数字の背景には,自然治癒したケースや,インタビュアーの期待に応えたいという患者側の心理や,プラセボ効果や,その患者が受けていたかもしれないホメオパシー以外の治療の効果など,さまざまな要因があったことだろう。ブリストル・ホメオパシー病院の研究にはあまり意味がないと指摘する批判的な人も多かった。たとえばサイエンス・ライターのティマンドラ・ハークネスはこう述べた。「それはちょうど,チーズだけを食べさせれば子どもの身長が伸びるという仮説を立て,子どもたち全員にチーズばかり食べさせて,1年後に身長を測ってこう言うようなものだ。『ほらごらん!全員の身長が伸びたではないか,チーズが効く証拠だ!』」
サイモン・シン&エツァート・エルンスト 青木薫(訳) (2010). 代替医療のトリック 新潮社 p.183-184
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