最後にもうひとつ,プラセボ効果に頼った治療を避けなければならない理由がある。実際,その理由は非常に有力なので,偽の薬や治療法を日常的に利用する必要はどこにもなく,まったく正当化できないことがすぐに明らかになるだろう。プラセボ効果はときに非常に有益なものになるという点は誰も否定しない。しかし実を言えば,プラセボ効果を引き出すために,偽薬を使う必要はないのだ。一見すると逆説的だが,少し詳しく説明すれば,あまりにも当然のことだとわかるだろう。
医師が効果の証明された薬を処方すれば,患者には生化学的,生理学的な効果があるだろう。そしてその効き目は,プラセボ効果によってつねに強められるということを思い出そう。薬の標準的な効果のほかに,その薬が効くと患者が期待することによって,標準的なレベルを上まわる効果があるはずなのだ。それなのになぜ,プラセボ効果だけしかない治療を受けなければならないのだろうか?なぜセラピストは,プラセボ効果だけしかない薬を使うのだろう?それは患者を騙しているだけではないのだろうか?
サイモン・シン&エツァート・エルンスト 青木薫(訳) (2010). 代替医療のトリック 新潮社 pp.318-319
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