「傍観者効果」と呼ばれるようになったこの現象について,ラタネとダーリーが調べはじめたのは,キティ・ジェノヴェーゼの殺害を38人もの人が目撃しながら,手を貸そうとしなかった事件が発端だった。だが最近の調査では,当時のメディアが事件を報道する際に,人びとの冷淡さを誇張して伝えた可能性も浮上している。事件を担当した弁護士の1人は,目撃者としてつきとめられたのは6人ほどだったと語っている。しかもそのうちジェノヴェーゼが刺される現場を見た人は1人もなく,事件の最中に警察に通報したと言っている人が,少なくとも1人いるという。だが,当日実際になにがあったにせよ,報道に触発された数々の実験で,助けが必要なとき周囲にいくら人がいてもあてにならない理由が,かなり解明されたことは事実である。
リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2010). その科学が成功を決める 文藝春秋 pp.65-66
引用者注:Kitty Genoveseは,「キティ・ジェノヴィーズ」とカタカナにされることが一般的でしょう。
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