とはいえ,実際にブレイン・ストーミングに参加した経験があるなら,そんな風にうまくいかないことはご存知でしょう。言い出しっぺは自分だ,このアイデアは自分のものだという感覚からはなかなか抜けられません。『Improv Wisdom(即興の知恵)』を書いたパトリシア・ライアン・マドソンは,「アイデアに悪いものなどない」と「ほかの人のアイデアを発展させる」という2つの命題を両立させる,すばらしい演習を編み出しました。まず,グループを2人組に分けます。ひとりがパーティを計画し,もうひとりに提案します。提案された方は,どんなアイデアも否定し,どうしてダメなのか理由を言わなくてはなりません。たとえば,「土曜の夜にパーティをしよう」と誘われたら,「ダメ。美容院に行かなくてはいけないから」などと答えるのです。これを2,3分続けると,提案する方はフラストレーションが溜まりますが,その一方で,なんとか相手にイエスと言わせるアイデアを思いつこうと頑張ります。しばらくしたら役割を交代し,いままでノーと答えてきた人が,パーティの案を考えることにします。提案された方は,今度はすべてイエスと答え,なにか付け加えなければいけません。たとえば,「土曜の夜にパーティをしよう」と言われたら,「そうしましょう。わたしはケーキを持っていくわ」などと答えるわけです。これをしばらく続けていると,思いも寄らない飛躍をすることになります。パーティが開かれる場所が海中やよその惑星だったり,見たこともない料理や,奇抜な余興が用意されたりすることになります。その場のエネルギーが高まり,気持ちが高揚し,数え切れないほどのアイデアがつぎつぎと生まれます。
ティナ・シーリング 高遠裕子(訳) (2010). 20歳のときに知っておきたかったこと:スタンフォード大学 集中講義 阪急コミュニケーションズ pp.57-58
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