コーチングに携わる人びとは神秘的なパワーに引きつけられる。それはどうしてだろう?そう,それ以外に伝授できることがないからだ。「キャリアコーチ」の場合,履歴書の書き方や簡潔で容を得た自己アピールの仕方を教えはしても,そういうこと以外には,確固たる技能をもって提供できるものがない。「キャリアコーチ」も,槍投げの距離を伸ばしたり,コンピュータの技能を磨いたり,大人数をかかえる部署内で情報を管理したりする役には立たない。彼らにできるのは,個人の態度や考え方に働きかけることだけだ。だからこそ,自分の態度をどうにかすれば成功が保証されるなどという抽象的な考え方を拠りどころにする。成功をつかめなくとも,また,それまでと変わらず金欠状態におちいっていたり,先の見えない仕事に縛られていたりしても,それはコーチではなく本人のせいである。自分の努力が足りないのだから,もっと一生懸命にやる必要があるというわけなのだ。
バーバラ・エーレンライク 中島由華(訳) (2010). ポジティブ病の国,アメリカ 河出書房新社 pp.78
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