ポジティブな自己解釈をするもう1つの例は,スーザン・セガーストロームの場合である。彼女はケンタッキー大学の教授で,ポジティブ心理学の「聖杯」かもしれない研究によって,2002年にテンプルトン賞を受賞している。その研究とは,ポジティブな感情と免疫系との関連の可能性に関するものだ。免疫系は,がんの治療には明らかな役割をもたないが,風邪などの感染症の克服にはたしかに重要である。しかし,ポジティブな感情と免疫系とが関連しているかどうかについては別の問題だ。マーティン・セリグマンは関連していると主張し,「幸せな人」は「それほど幸せではない人よりも免疫系がよく機能する」と書いた。セガーストロームは,1998年の論文で,おもな免疫細胞レベルから判断すれば,楽観主義は免疫力の向上に関係していると報告した。だが,その3年後に発表した別の論文では,「矛盾する発見があり」,ある環境のもとでは,楽観的な人は悲観的な人よりも「免疫力が劣る」としている。
しかし,その研究に関する彼女の談話を掲載した新聞を読んでも,彼女の結論が否定的であること,あるいは,少なくとも「肯定的だとはいえない」ことは,わからないだろう。2002年のニューヨーク・デイリーニューズ紙のインタビューで,彼女は,楽観主義の健康への有益性は「かなり大きい」とし,「たいてい楽観主義者のほうが感情をうまく調整できる」だけでなく,「楽観主義者のほとんどは病気に対する免疫反応がより強い」と語っている。私は,2007年にセガーストロームに電話インタビューをした。そのときの彼女の言い分によれば,メディアなどに圧力をかけられてネガティブな結論を封じたわけではないという。だが,受賞歴のことを話題にしたとき,彼女はこういった。「テンプルトン賞の受賞には……ヌル・リザルトでは何ももらえませんよ」
バーバラ・エーレンライク 中島由華(訳) (2010). ポジティブ病の国,アメリカ 河出書房新社 pp.201-202
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