他国の政策にケチをつけるくらいなら,農水省は予算の使い道を見直すべきだ。EU全体で約4000億円の輸出助成金が割り当てられているのに対し,日本の輸出促進予算は22億円。意味のない自給率向上キャンペーンなどの情報発信費48億円の半分以下というのが,この国の農業政策の現実である。
別の視点から見れば,英国やドイツの農家も日本の農家も,与えられた条件のなかで最大の所得機会を求めているにすぎない。英国,ドイツでは北海道より北にある生産条件と,昔と大きく変わらない食文化があるため,小麦やジャガイモ,畜産・酪農といった伝統的な農産物の生産量を上げ,輸出競争力を伸ばして所得を上げてきた。それがたまたまカロリーが高い基本食料だった。
対する日本の農家は高度経済成長という条件の下,多様な気候条件と変化する消費ニーズに対応し,従来の穀物生産から所得がもっと上がる野菜や果物にシフトしてきたのだ。それが海外の大豆や小麦より競争力のある,カロリーの低い農産物だったのである。輸出が少ないのは,国内で売ったほうが儲かったからにすぎない。
浅川芳裕 (2010). 日本は世界5位の農業大国:大嘘だらけの食料自給率 講談社 pp.40-41
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