日本農業の問題点の1つとして,「農家数が減り,耕作放棄地が増えているから日本農業はこれから衰退する」という主張が,正論のようにまかり通っている点がある。確かに全国の耕作放棄地は,合計すると埼玉県の面積に匹敵するほどの規模にまで膨れ上がっている。
しかし,放棄された農地はそもそも需要のない農地であり,実は放棄されたところで何ら問題はない。土地の条件が悪く無理して作付けしても儲からない。また農業以外の産業に従事するようになったという合理的な理由で,所有者が耕作をやめただけである。
この現象は世界中で起こっている。過去10年間で日本の農地は70万ヘクタール減少したが,フランスでも54万ヘクタール,イタリアでは146万ヘクタール,米国に至っては373万ヘクタールも減少。それでも各国の生産量が増えているのは,生産技術が向上し,同じ面積で何倍もの収穫が得られるようになったためである。
むしろ,耕作放棄地の増加にはメリットがある。成長農場が需要増に対応して,耕作放棄地を安く借りられる,また買える機会が増えるからだ。農場の収益も国の税収も地域の雇用も増える。まさに宝の山である。だから,耕作放棄地の増加は放っておけばいい。赤字の擬似農家を保護し放棄地を減らそうという政策は,税金の無駄使いでしかない。
浅川芳裕 (2010). 日本は世界5位の農業大国:大嘘だらけの食料自給率 講談社 pp.84-85
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