まず,日本の農産物総生産量は着実に増えている。1960年の4700万トンから,2005年には5000万トンへと300万トンの増産を実現しているのだ。ちなみにカロリーベースの自給率のほうは,1960年には79パーセントであったが,2005年には40パーセントに半減。多くの人は自給率半減と聞いて,生産量が半減したと勘違いしているはず。だが,実際は増産している。
それぞれの品目で見ても,生産量が世界トップレベルのものが少なくない。ネギの世界一を筆頭に,ホウレンソウは3位,ミカン類は4位,キャベツは5位,イチゴ,キュウリは6位などと,世界のトップテン入りを果たしている農産物も多い。意外に思われるかもしれないが,キウイフルーツも世界6位であり,米国の生産量を上回っている。
生産能力の4割を減反しているコメは10位だが,減反開始前の1960年代には3位だった。また果物の王様リンゴが14位,欧米のメジャー作物ジャガイモでさえ22位と健闘している。
これだけの生産量を誇っている理由としては,日本が世界10位の人口大国だということもある。また,食文化の違いもある。さらに,下がったとはいえ国民所得も高い。昔は生きていくために,コメやイモ類などカロリーの高いものを大量に消費していたが,現在がイチゴやキウイフルーツをデザートとして,楽しむようになった。このように多様な果物や野菜を食べる食文化が根付いたことも背景にある。
しかし,果物や野菜は総じてカロリーが低いため,どれだけ国産が増えてもなかなか自給率向上にはつながらない。それならば自給率などという曖昧な指標より,国内生産量のほうが国民にも農家にも圧倒的に重要ではないか。「日本の農家は食糧の増産に成功している」というシンプルな事実だけでも,食糧危機に対する漠然とした不安は払拭され,頼もしい産業であると農家への認識が改められるだろう。
浅川芳裕 (2010). 日本は世界5位の農業大国:大嘘だらけの食料自給率 講談社 pp.114-116
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