つまり,自給率という指標は外部に大きく依存しており,それ自体で自己完結できないのだ。そのため,それを何パーセント上げようという向上目標は成立し得ないのである。たとえば英国は産業革命以来,食料自給率を目標に掲げたことも,達成したこともなく,これからもすることがないだろう。英国は食料を多くの安定した国から調達している。多様性が安全保障を強化するのである。
国内生産は当然必要だが,自給のために全国民が農業をしたからといって,100パーセントの自給率が達成できるわけではない。様々な手段で自分の能力を発揮し,必要な収入を得て,食料を始めとした多くの資源を手にできるのが先進国の証でもある。
食糧安保とはリスク・マネジメントの課題であって,自給の問題ではない。国内農業の次元を完全に超えている。それは食料の問題ですらなく,一国の問題という次元でもとらえられないのだ。
浅川芳裕 (2010). 日本は世界5位の農業大国:大嘘だらけの食料自給率 講談社 pp.168-169
PR