模倣は人間の行動形成にとても強い影響を及ぼす。私たちは全員それを肝に銘じておくべきだ——とくに,まだ幼い子供がいる身なら。私の知るかぎり,人はたいてい自分の子供に正しいことを言う。かんしゃくを起こしてはいけない,つねに他人の身になって考えよ,等々。だが,はたして私たちは自分の言うことを実行しているだろうか?私はときに,自分の娘にしてはいけないと言っている行動をそっくり娘にしてみせていたりするのだ!そのような場合,私はふと怖くなる。私がしなさいと言っていることではなく,私が実際にしていることばかりを娘が取り入れてしまうのではないかと思うからだ。なにしろ子供の脳は,模倣を通じて他人から行動を取り入れることに非常に長けているのである(子どもが成長するにつれ,そうした模倣はしだいに複雑になり,前に述べたような乳幼児に見られる基本的な物真似とはまったく比較にならなくなる。さらに,このあと述べる少し大きくなった幼児の模倣行動に比べても,やはりずっと複雑である。こうした「高度」で複雑なかたちの模倣については,追って詳しく述べることにする)。
マルコ・イアコボーニ 塩原通緒(訳) (2009). ミラーニューロンの発見:「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 早川書房 pp.83-84
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