この手と口は,発達初期に「対等」な関係で連動するのだろうか。それともなんらかの証拠から,発達上どちらかが主で,どちらかが従だと言えるのだろうか(さらに個体発生が系統発生を繰り返すとの説にならえば進化上においても)。いつは,その証拠らしきものはすでに見ている。幼い子供が言葉と身ぶりに食い違いを示すとき,一般には言葉よりも身ぶりの方が進んだ概念を表しているのである。発達のもっと早い段階で見ると,片言しゃべりの75パーセントがリズミカルな手の活動と同時発生しているのに対し,リズミカルな手の運動は約40パーセントが片言しゃべりと同時発生している。この数字は,口よりも手のほうが早く自立することを示している。そしてなにより重要なのは,赤ん坊が最初の言葉を発する前から意思伝達のための身ぶりを用いていることだ。指をさすのもこの早熟な身ぶりの1つだし,両手をバタバタさせて鳥を示す「アイコン」としての身ぶりさえ見受けられる。前に述べたようなミラーニューロンとアイコンとしての身ぶりとの関係を考えれば,発達の非常に早い段階からアイコンとしての身ぶりが用いられるということは,ミラーニューロンが言語の発達と言語の進化にとってきわめて重要な脳細胞であるという仮説にもいっそうの信憑性が出てくると言えよう。
マルコ・イアコボーニ 塩原通緒(訳) (2009). ミラーニューロンの発見:「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 早川書房 pp.111-112
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