面と向かっての会話には,また別のかたちの模倣と相互作用による調整がある。言葉の意味も話す順番も自動的に了解されるが,ここでは同時に起こる身ぶり,視線の方向,体の回転などが,話されていることを理解するするのにとても重要な助けとなる。これらの言葉によらないコミュニケーションは,あっというまに様式化する。対話の中では互いが互いを終始見つめているように感じるかもしれないが,自然発生的な会話を録画したテープを詳細に分析してみると,じつは話し手が話し出したときに,聞き手が話し手の目を見ていることはほとんどない。その直後,聞き手はちらりと話し手の目を見る。この互いに目が合った瞬間に,たいてい話し手は言いかけていた文章を中断して,新たな文章を話しはじめる。それはあたかも,聞き手が相手の目をまっすぐ見ることにより,こう保証しているかのようである。「どうぞお先に。あなたが話す番だから邪魔はしないよ(とりあえず数秒は……)」
簡単に言えば,会話の中の言葉と行動はどちらも共通の目標をもった組織的な協調活動の一部であり,この対話のダンスは私たちにとって自然でもあり容易でもある。だが,どちらについても伝統的な言語学ではほとんど研究されていない。さらに言うなら,こうしたダンスはまさしく,ミラーニューロンが模倣を通じて促進する社会的相互作用の一種でもある。
マルコ・イアコボーニ 塩原通緒(訳) (2009). ミラーニューロンの発見:「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 早川書房 pp.125-126
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