要するに,さまざまなテクノロジーはそれぞれ別種の調査に役立つものであり,どのテクノロジーもそれぞれ独自の要因によって制限を受けている。実施上の要因,管理上の要因,金銭上の要因,あるいは倫理上の要因なのである。サルを使った研究では,細胞単位での研究からアンサンブルでの研究には容易に移行できなかったし,逆に人間を使った研究では,本当に中途半端な状態にとらわれてきたのだ。数々の難問を前に,私たちが壁を打破してすべてをつなぎあわせるには推論しか主たる手段がなく,その推論にしろ,有益で必要なものではあるが決して完璧なツールではない。現存する種の中で最も私たちに近い親戚であるチンパンジーを研究するときでさえ,推論だけでは不十分だ。ましてやマカクは,進化の系統図の中でチンパンジーや人間よりも数段階は下にいる。残念ながら,このギャップを埋めるために私たちにできることはほとんどない。進化のプロセスは変えられないし,また,人間や大型ザルへの過剰に侵襲的な科学調査をさせない配慮について意見を変えるつもりも毛頭ない。この件に関して意見を変えるような社会なら,私はそこに住みたくない。
マルコ・イアコボーニ 塩原通緒(訳) (2009). ミラーニューロンの発見:「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 早川書房 pp.227
PR