スキャンの当日,被験者はただ顔を見ることだけを求められ,そのあいだの脳活動がfMRIで測定された。結果は,私が自分の仮説から予測していたとおりのものだった。被験者の脳内のミラーリングが表すものの1つに,人間社会全体という大きなコミュニティの内部にある特定のコミュニティへの連帯感や帰属感があるだろうという仮説である。政治通の被験者のミラーニューロン領域は,政治家でない有名人や知らない人物を見ているときよりも,政治家を見ているときに最も活性が高まっていた政治初心者のミラーニューロン領域は,政治家を見ているときも政治家でない人物を見ているときも,なんら活性に変化がなかった。この政治通の被験者から得られた結果を,第4章ので述べた,感情的な表情の観察と模倣に関する以前の調査結果を比べてみたところ,活性化している場所が驚くほど一致していることがわかった。この解剖学的一致から言えるのは,私がこれらの活性化の基盤として仮定していた抽象度の高いミラーリング——特定のコミュニティへの帰属感——においても,ミラーニューロンシステムは基本的な神経機構,つまり,もっと日常的なミラーリング課題でも活性化する神経機構を使っているということだ。
マルコ・イアコボーニ 塩原通緒(訳) (2009). ミラーニューロンの発見:「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 早川書房 pp.305-306
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