「ぼくは,自分自身がハブだということにもう気づいたかな?」
「僕が,ハブ?」食べかけのコアラが喉に詰まってケンタはむせた。
「わしが教えたネットワークの3つの性質を思い出してごらん」
「えーと,大きくて小さい,中国の蝶がアメリカで竜巻を起こす。モテる者がますますモテるようになる……」
「それはそのまま学校にも当てはまるじゃろう」博士は言った「学校では,ささいなウソがすぐに広まる。ちょっとした出来事が大きな騒動につながる。そしていちどいじめの標的に選ばれると,フィードバック効果によって,クラス全員の憎悪と暴力を1人で受け止めることになる。これはまさに,ぼくが体験したことではないのかね?」
ネットワーク理論におけるフィードバックは,成功した企業や大富豪など,常にポジティブな事例でしか語られない。だがフィードバックは,あらゆる方向に作用する。いじめが典型的なネットワーク現象なのは,ひとたびマイナスのレッテルを貼られると,憎悪のリンクがまたたくまに増殖していくことからも明らかだ。いじめの標的はクラスに1人しかいらない。なんらかの偶然でその1人に選ばれれば,もはやそこから逃れる術はない。
橘玲 (2007). 亜玖夢博士の経済入門 文藝春秋 p.113
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