死刑の犯罪抑止効果についての研究や,ギャンブラーの心理についての研究から,自分自身の信念にとって都合の悪い情報を,私たちは思ったほど軽んじているわけではないことが示された。そうした情報は,自分自身の信念にできるだけ影響を及ぼさないように,巧みに取り扱われているのである。既存の考えに反する情報を単に無視するのではなく,私たちは,そうした情報を特に厳密に吟味するのである。そして,その結果,既存の考えに反する情報は,欠陥の多い考慮に値しないものと見なされたり,既存の考えにあまり影響を与えない種類の情報に変換されたりするのである。死刑廃止論者たちは,死刑の犯罪抑止効果を支持する調査例を,結局は欠陥だらけの意味のないものとみなした。また,ギャンブラーたちは,予想が外れたのは予想が困難だったからとするのではなく,もう少しうまい戦略をとりさえすれば当たったはずだと結論づけるのであった。
T.ギロビッチ 守 一雄・守 秀子(訳) (1993). 人間この信じやすきもの—迷信・誤信はどうして生まれるか— 新曜社 pp.90
(Gilovich, T. (1991). How we know what isn’t so: The fallibility of human reason in everyday life. New York: Free Press.)
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