合致情報と非合致情報との違いには,重要な要因が関わっている。それは,ある信念や仮説を持っているとき,その信念や仮説に合致するできごとだけが印象に残りやすいということである。というのは,そうした合致情報は,そうした信念や仮説を思い起こさせるからである。占い師に見てもらった人が,あなたは双子の親になるだろうと言われたとしよう。何年も経ってから実際に双子が生まれたとすれば,その人の記憶から長い間忘れられていた予言が思い出されることはまちがいない。さらには,予言が現実のものとなったという事実は,その後も決して忘れられることはないであろう。これに対し,ふつうに単児が生まれた場合には,過去の予言が思い起こされる可能性はずっと少ないに違いない。出産はひとつの立派な「生起」事例であるが,単児の出産は予言との関わりからは「非生起」事例であり,予言が実現しなかったことが改めて思い起こされることにはなりにくい。しかも,単児の出産は予言が正しくなかったことの反証事例ではなく,予言の正しさが確認されなかったというだけのことにすぎない。なぜなら,予言された双子の出産は,次の妊娠でまだ起こる可能性があるからである。
T.ギロビッチ 守 一雄・守 秀子(訳) (1993). 人間この信じやすきもの—迷信・誤信はどうして生まれるか— 新曜社 pp.104-105
(Gilovich, T. (1991). How we know what isn’t so: The fallibility of human reason in everyday life. New York: Free Press.)
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