こうした話題についての最近の研究の多くは,「総意誤認効果」と呼ばれる現象に焦点を合わせたものである。「総意誤認効果」というのは,ある種の信念(や価値観や習慣)がどの程度人々に共有されているかを推定する際に,そうした信念を自分自身が持っていると,そうした推定が過大になりがちになる傾向を言う。たとえば,フランスびいきの人は,フランス嫌いの人が考えるよりも,フランス文化やフランス料理が多くの人に好まれていると考えている。酒飲みは,酒を飲まない人が考えているよりも,多くの人が飲酒を好むと考えている。こうした現象についての最もよく引用される実験として,大学生に,「悔い改めよ」と書かれた大きなプラカードを持ってキャンパス内を歩き回ってもらえるかどうかを尋ねてみた実験がある。かなりの数の大学生が,そうしてもよいと答え,同様にかなりの数の大学生がいやだと答えた。そうした回答が得られた後で,同じ大学生に,やるという学生とやらないという学生とが仲間の大学生の中にどのくらいずついると思うかを推定してもらった。その結果,これらの大学生の推測は,自分自身がどちらを選択したかに大きく影響されることがわかった。自分がやると答えた学生は,他の学生でも60%はやるだろうと推測したのに対し,自分がやらないと答えた学生は,そんなことをやるのは27%ぐらいだろうと推測したのである。
T.ギロビッチ 守 一雄・守 秀子(訳) (1993). 人間この信じやすきもの—迷信・誤信はどうして生まれるか— 新曜社 pp.188-189
(Gilovich, T. (1991). How we know what isn’t so: The fallibility of human reason in everyday life. New York: Free Press.)
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