名前がほかの要素と比べて重要でないことは,数年前にイギリスの研究で証明された。にせの人物のプロフィールを暗記させるという実験だ。各プロフィールには架空の名前のほか,その人物ゆかりの地名(出身地など)や職業,趣味といった,にせの情報が記されている。にせのプロフィールは,たとえばこんな感じだ。<アン・コリンズ。有名なアマチュア写真家。ブリストル近郊在住。地元で訪問看護師として働いている>
では,実在する被験者たちは,実在しない人物の何を覚えていたか?
「職業」だと思ったあなた,正解だ。職業は全被験者の69%が記憶していた。タッチの差で2位だったのは「趣味」の68%,次いで,62%の「出身地」。ぶっちぎりで最下位だったのが「名前」である。ファーストネーム(名)は31%,ラストネーム(姓)は30%しか覚えてもらえなかった。どういうわけか,その人がパン屋(ベイカー)を営んでいることは姓がベイカーであることより覚えやすいのだ。
ジョゼフ・T・ハリナン 栗原百代(訳) (2010). しまった!:「失敗の心理」を科学する 講談社 pp.49
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