また,複数の人間を見分けるには身体的特徴だけを頼りにするわけではないが,いざ,どうやって見分けるかと問われれば,通常は身体的特徴をあげるものだ。さて,あなたならどこを見るだろう?多くの研究がこの答えを求めてきた。もっとも一致した発見はというと,唯一重要な特徴は……毛髪だという。ほかのどの身体的特徴より簡単に変えられることを考えると,じつに興味深い選択である。切ったり染めたり伸ばしたり,失うことすらあるのに。それでも髪なのだ。
ところが,研究者がやや異なる質問をしたところ,顔の記憶にかんして驚くべき答えが得られた。正直さ,好ましさ,といった主観的な判断によろ特性を与えた場合のほうが,髪や目などの身体的特徴で区別した場合よりも,その人の顔がよく覚えられるというのだ。特性の方が造作よりも記憶に残るのはなぜか?特性のほうが脳に要求する情報処理が高度になるからだ。この顔は正直かどうかと考えるほうが,縮れ毛かどうかを決めるよりも頭を使う。苦労したほうが,記憶に残るらしい。
この効果はてきめんなので,顔認識の研究の第一人者はこんな助言もしている。
「人の顔を覚えていたければ,はじめて会ったときに『この人は善良そうだ』とか『くせ者らしい』などと人格判断を下してみるといい」
ジョゼフ・T・ハリナン 栗原百代(訳) (2010). しまった!:「失敗の心理」を科学する 講談社 pp.61-62
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