ゴルドフスキーの時代からスキムに関する研究は重ねられ,知見は広げられた。世界的に有名な音楽心理学者ジョン・スロボダは,サンプルの楽譜にある音符をいくつかわざと変えておき,ベテランの音楽家にそれを1度でなく2度,演奏させてみた。初回の演奏では,変更された音符のほぼ38%が見落とされてしまった。
だが,ほんとうに興味深いのは2度目の演奏で起きたことだ。うっかりミスを見落とす割合は下がらないどころか,むしろ上がったのである!つまり音楽家は,たった1回の演奏で曲を頭に入れてしまい,2回目には音符を見ずに,パターンを探りながら演奏したのだった。簡単に言うと,スキムしていたのだ。
この傾向は,私たちがなぜ自分のミスに気づかないのかを理解するために大きな意味をもつ。ものを見慣れるにつれて気づくことは増えず,むしろ減りがちである。ものごとをありのままにではなく,あるべき(と思う)ように見るからだ。この深く根ざした行動のせいで,音符のような小さなものばかりか,驚くほど大きなものも見逃しかねない。
ジョゼフ・T・ハリナン 栗原百代(訳) (2010). しまった!:「失敗の心理」を科学する 講談社 pp.157
引用者注:「スキム」は“scheme”だろうか。心理学では「スキーマ」とされることが多いのでは?
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