自己の能力を信じる力はあまりに強く,私たちはしばしばコイン投げやトランプのゲームといった偶然の出来事まで支配できると思いこんでしまう。
何年も前におこなわれた有名な一連の実験によって,現在ハーヴァード大学教授のエレン・ランガーは,もっと分別があってしかるべきグループ——イェール大学生でも,この傾向が見られることを示した。
ランガーは,イェール大学の学部生に,教員とカードを使ってゲームをさせた。単純なゲームだ。各自が1枚ずつカードを引いて,数が大きなほうの勝ちとする。学生は毎回,0〜25セントを賭けることができた。
だが,このゲームにはしかけがあった。学生の一部は,洒落た服装をした,いかにも有能そうな人物と対戦し,ほかの学生たちは教員らしくない運動着のさえない先生を相手にした。どちらの場合でも,数が大きいカードを引く確率は同じである。カードにはプレイヤーが何者かなど関係ないのだから。だが学生はおおいに気にした。そこが重要な点だ。
学生は,さえない教官と対戦するときには,自分が大きな数のカードを引くのに自信満々だった。この自信が掛け金に表れたのだ。「さえない教官」が相手のときは「有能そうな教官」と勝負するときよりも賭ける金額がつねに高かったのである。
学生にコイントスの結果を予測させたときも同様の効果が認められた。このゲームにもしかけがあった。実験の協力者が放り投げたコインが空中にあるうちに学生が表か裏かをコールするのだが,結果はあらかじめ決めてあった。一部の学生にだけ最初の数回を当たったと告げることにしたのだ(学生にはコインが表か裏かは見せない)。
この最初の連勝は,学生の自信に大きく影響した。しばらくすると,しょっぱなから当たったと信じた学生たちは,自分には表か裏かを当てる能力があって,半分以上の確率で予想を的中させられると確信するようになったのだ。だが,もっと興味深いのは,ゲーム後のコメントである。学生の40%が,「練習をすれば的中率を上げられる」と本気で思っていた。ランガーはこの現象を「支配という名の幻想」と呼んだ。
ジョゼフ・T・ハリナン 栗原百代(訳) (2010). しまった!:「失敗の心理」を科学する 講談社 pp.216-217
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