「ガスライティング」では,あるできごとが起きた,またはある発言があったという事実を否定する。境界性パーソナリティ障害であるか,意識的または無意識的に他者を操作しコントロールしたいという欲求を持つその他の人間に見られる行動である。他者の認識,記憶,正気であるという事実そのものを否定することもある。以下は大学のルームメイトに対するガスライティングの例だ。
「ルームメイトにあることを尋ねると,彼女は推測で答えたが,正しいかどうかは自信がないと言った。そこでわたしが母にメールで尋ね,ルームメイトが正しいことがわかった。ルームメイトにそのメールを見せたのは『ほら,あなたの言うとおりだったわ!』という意味だった。ところがどういうわけか彼女はそれから15分間にわたってどなり,叫び,悪口雑言を並べ,罵倒し,最後にこうわめいた。『母親からのメールなんか見せて,わたしがまちがってると言うなんて!』。わたしが言ったこととまったく逆だった。わたしは彼女に向かってメールを見てと言い,『彼女が正しかった』と教えたいのだとわからせようとしたが,彼女は見ることさえ拒否し,顔までそむけ,1語たりとも読もうとはしなかった。理由はわからないが,彼女には,『彼女がまちがっていて愚かだとわたしが言おうとしている』と信じる“必要”があったのだ」
バーバラ・オークレイ 酒井武志(訳) (2009). 悪の遺伝子:ヒトはいつ天使から悪魔に変わるのか イースト・プレス pp.212
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