ナルシシズムは,境界性パーソナリティ障害と反社会性パーソナリティ障害にしばしば見られる。しかし毛沢東のナルシシズムはあまりに異常で,宗教の域にまで達し,自らの指導者としての役割にほとんど神秘的な信仰を抱いていた。彼は自らのリーダーシップを疑ったことはなく,自分のリーダーシップだけが変わりゆく中国を救い,変えることができると信じ,毛沢東が国家の救世主であるという社会通念を自分でも信じていたのだ。毛沢東に対する個人崇拝は彼が陰から強く促しており,1940年代にはすでに表に現れ,共産党綱領の新たな前文には,最終的にはこう書かれている。「中国共産党は毛沢東の思想を……すべての仕事を導くものとして採択し,独断的,あるいは経験論的な逸脱はいっさい認めない」。毛沢東自身がこう述べている。「問題は,個人崇拝をするべきかどうかではなく,その人物が真実を表しているかどうかだ。もし表しているなら,彼は崇拝されるべきだ」
バーバラ・オークレイ 酒井武志(訳) (2009). 悪の遺伝子:ヒトはいつ天使から悪魔に変わるのか イースト・プレス pp.264-265
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