「ありのままでいる」とは,どんなことなのかを検討すれば,そうした疑問の答えが得られる。多くの場合,「ありのままでいなさい」という助言は,対人関係でもっともシンプルなアプローチを取りなさいという意味だ。だが実際は,綿密に検討してみれば「ありのままでいる」ことは,数多くの要素の微妙なバランスを必要とする,非常に複雑なプロセスなのだとわかる。
まず,対人関係では,他人との出会いの舞台となる状況がさまざまに変化する。たとえば,パーティで友人と出会えば,オフィスの小部屋へ訪ねていくときとはちがう話し方をするだろう。異なる状況での異なる行動基準は,相手に提示する「自己」をも考慮に入れなければならない。さらに,その「自己」は,感情を含めた出会いの状況によって形成される。たとえば,もし相手が可愛がっていた猫を亡くしたばかりだったら,思いやりを示さなければ友人としてふさわしくない。もし相手が婚約したといえば,喜んで祝福しなければ友人としてふさわしくない。いかにふるまうべきかを左右するそうした社会的な基準は,私たちの「本当の」感情を表現することよりも重要視される。
ロバート・フェルドマン 古草秀子(訳) (2010). なぜ人は10分間に3回嘘をつくのか:嘘とだましの心理学 講談社 pp.26-27
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